之島在住徳 松岡 由紀さん 与論実習を通して「過去だけでなく現在と未来を見据える視点を得る手法を学んだ」とおっしゃって頂けるのはとても嬉しいです。まさにそのことを共有したくて実習を企画しました。その意図を補足いたします。 まず、奄美〈環境文化〉という言葉(考え方・概念)が、奄美群島のこれからの自立的発展のために力を持つためには、産業と結びついた文化を構想していく必要があると考えています。昔は、現代よりも身近な自然環境に生活・生産手段を求めて島の暮らしは成り立っていました。そのような時代に育まれた文化を私たちは「伝統文化」と捉え、継承しようとしていますが、その文化の背後には、生計を支えていた経済活動があったことは大切にしていく必要があると思います。実際に奄美の先人たちも、時代の変化に合わせて生活・生産様式を変えながら「環境文化」を創造・継承し、現在の「伝統文化」が形づくられてきたと考える方が自然でしょう。 また、「環境文化」という考えが、自然保護と開発の二項対立を超えるための思想として90年代初頭に屋久島で生まれたのだとしたら、奄美〈環境文化〉もまた、これからの自然保護と暮らし(生活・生産様式)の関係に焦点を当てていく必要があると思います。2009年に環境省の発表した「奄美地域の自然資源の保全・活用に関する基本的な考え方」の中では、環境文化は「島の人々が島の自然とかかわり、相互に影響を加え合いながら形成、獲得してきた意識及び生活・生産様式の総体」と規定しています。 現代は、昔に比べると衣食住など暮らしに不可欠な生活・生産手段の分業化・専業化が進み、生産する人と消費する人の間も距離も広がっています。第1次・第2次・第3次産業という分け方がそのことを象徴していますし、逆に注目されるようになって久しい第5次・第6次産業という言い方は、専業分業された生産・消費形態を再び統合しようとする動きだとみることができます。 いずれにしろ「環境文化」を考えるにあたって産業を重視するのは、島で生きていくためにどうやって生計を成り立たせるのかというテーマが、「環境文化」の中心、つまり、島の人々と島の自然とのかかわりの中核にあったことを大切にするためです。昔は、仕事と遊び、冠婚葬祭などの営みは今ほど明確な線引きはなく一体だったので、いちいち「産業とつながる文化」といった断りも必要なかったでしょうけど。 そういう意味でも、「社会教育が縦割りを横串できる」というご指摘は、社会教育の意義や可能性をよく表して頂いていると思います。先生と生徒という関係が固定化されるのは、明治以降の近代学校教育の産物です。最近の研究では、教育の主体は自然だったーという言われ方もされるようになっています。社会教育課に身を置いて日々実感していることはとても貴重です。ぜひ講義の中でもフィードバックをしてください。(1)本日の講義で奄美環境文化実習を振り返り、改めて気づいたことや考えたことは何ですか。グループで話し合った内容も紹介しながら書いてください。(2)社会教育の考え方や方法について、実際に生かせそうなことやもっと知りたいことはありましたか。教えてください。R.4年 | 科目114 |社会教育経営論2小栗(1)「環境文化」というワードのイメージが伝統や文化に偏りがちではあるが、特に与論実習では漁業や畜産など海と陸をフィールドにした仕事を産業化している部分に敢えてフォーカスしたこと。それは文化や伝統をどう継承するか、という部分と明日いかに生きるか、という部分を環境文化の枠の中で並行して考えなくてはならないという理由から。過去だけでなく現在と未来を見据える視点を得る手法を学んだ。 与論の東地区では見向きもされていなかった民具を集め、一家族が民俗村を作って運営していたが、そこに教育行政の補完体制ができる経緯をみた。全ての実習地区で、過去を知るにとどまらず、そこから未来への共有意識や指針を見出すという本講義の目的を、改めて振り返ることが出来た。(2)学問もだが行政も効率化のために縦割化され久しいが、人間の暮らしそのものは項目ごとに分断できるものではなく、そこに横串を刺せるのが社会教育、というのは今現在社会教育課に身を置いて日々実感している。自由にカリキュラム化できること、住民の自主性を引き伸ばすことができること、先生として地元住民にその役割を担ってもらうことでその人たちの活躍の場を提供できるという可能性は、やりようによって無限にあると改めて感じた。 また話し合いの中でも先生になると教えすぎてしまうという声があり、講師やガイド業の人たちを見ていても、それが対象者とのやり取りの中で相手の理解を促すための場なのか、伝えている本人の知識を披露する場なのか、聴衆のニーズを知るほどに後者であってはならないと常に感じている。 その意味で、それぞれの人生の段階、今現在のニーズを掴み、適当な講師を立て、テーマ設定をして学びたい人を集めることができる社会教育のジャンルは、自治体職員の立場でもその後に続く人生の中でも、軸として持っていたいと感じている。23
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