奄美<環境文化>教育プログラムのしおり
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 このプログラムでは、中学・高校卒業後に約9割が島外へ就職・進学していく奄美群島において、本来ならば小中高の学校教育で学んでもおかしくない奄美群島の自然・歴史・文化の基礎的知識について、〈環境文化〉概念に基づいて構成された講義と実習の学習機会を提供しています。その学習の取り組みにおいて、受講生に繰り返し伝えているメッセージがあります。1.〈環境文化〉意識の醸成 2013年12月に世界自然遺産候補地科学委員会において「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が候補地に選定されると、世界自然遺産登録に向けて2017年3月7日には奄美群島が国立公園に指定されました。そして、2021年7月26日に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録を果たします。 世界自然登録をめざした自然保全の事前措置として指定された「奄美群島国立公園」には、二つの国立公園の管理運営形態が付与されています。第一に、この国立公園は、自然景観の保護という方向ではなく、そこに生息する希少野生動植物の保護に重点を置く「生態系管理型」の国立公園となっています。第二に、保護の対象となる希少野生動植物等の分布地域が人びとの居住地域と近接しているので、これまで営まれてきた伝統的暮らしを維持していくことこそが共生的であり、希少種の保全にも繋がるという考え方を行い、国内で初めてとなる「環境文化型」の国立公園にも位置づけられています。 奄美大島と徳之島が世界自然遺産候補地に選定されて以降、登録されて今日に至るまで、喜界島・沖永良部島・与論島の反応をみていると、「世界自然遺産は奄美大島と徳之島にあるから自分事ではない」という意識が少なからずあるように思われます。 このプログラムでは、奄美群島で生まれ育った地元出身者、あるいは移住してきた島外出身者のどちらも対象として、奄美群島でまだ意識の共有が薄い〈環境文化〉について、わかりやすく実感してもらえるように、奄美群島の全域を対象として講義と実習を開催しています。「環境文化型国立公園」を視座として、奄美群島の理解を深めていく時、そこに同じ亜熱帯島嶼でも沖縄県と異なる奄美群島の「環境」が持つ独自性、固有性が浮かび上がってくるのです。 この「環境文化」概念については、環境省により「固有の自然環境の中で、歴史的につくり上げられてきた自然と人間のかかわりの過程と結果の総体、つまり、島の人々が島の自然とかかわり、相互に影響を加え合いながら形成、獲得してきた意識及び生活・生産様式の総体である。屋久島環境文化村構想(鹿児島県)で提唱された」と説明されています。 「環境」という概念は、「自然」と同義に理解されがちですが、文字の意味が示すとおり、人のまわりをとり囲むものを指しています。原生的自然のみの環境だけでなく、歴史的風土があり、そこに人びとのさまざまな営みが生み出してきた二次的あるいは人工的な自然環境、人工物等も含めた広範囲の空間を括る概念です。 このプログラムでは、奄美群島の自然・歴史・文化に関する〈環境文化〉的知識の習得に止まらず、自分が暮らしている島を奄美群島の中で相対的に捉え直して自己統合を図り、〈環境文化〉を活かした暮らしや仕事の創出に繋げていくことを目指しています。〈環境文化〉意識の醸成は、奄美群島をより深く理解していくことに繋がり、そこから沖縄県の島嶼とは異なる奄美群島固有の姿を浮かび上がらせます。〈環境文化〉意識がもたらすさまざな知識や価値観等の自己統合は、自分が主人公の〈環境文化〉物語を描き出し、わたしたちが奄美群島で「生きる意味」を考えさせてくれるのです。48〈環境文化〉意識の醸成と倫理観の錬磨に向けて

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