奄美群島・琉球諸島における国立公園と世界自然遺産登録地(奄美博物館2021を一部改変)2.倫理観の錬磨 大幅な規制緩和と構造改革が進み、市場原理主義が台頭する新自由主義の現代では、国家の権限は縮小され、市場経済が基本的方向の決定に非常に強い影響力を持つようになっています。 本プログラムは、わたしたちがそうした時代に生きていることを意識しながら進められています。〈環境文化〉を業務に活かすことを射程に入れた受講生も少なくないので、実習の際には「倫理観」の錬磨についても意識して意見交換や議論を行うように心がけているのです。 市場原理主義は、商品やサービスの高品質・低価格化を生み出し、消費者は自由に選んで購入できるようになり、企業も技術開発やコストダウン等のイノベーションが促進され、成長できる等のメリットがあります。一方で、①自然破壊を引き起こし、②コミュニティを衰退させ(個人主義の普及)、③伝統的文化を喪失させ、④経済格差を生み出す等のデメリットも併せ持っています。戦後の米軍占領統治から日本復帰を果たした奄美・沖縄の島嶼地域では、本土地域とは異なる亜熱帯の自然景観が観光地として人気を集め、大規模な観光開発が進められてきたのは周知のとおりです。 世界自然遺産に登録された奄美大島・徳之島は、世界遺産観光地の仲間入りを果たし、同時に経済効果を第一義的に追求した観光経営にも晒されることにもなりました。今後、観光対象である生態系の保護や、それぞれのシマ(集落)で営まれてきた伝統的文化や住民の暮らしの維持等、観光の管理・統制は大きな課題のひとつなのです。 また、世界自然遺産登録による奄美群島の知名度の向上、情報発信の増加は、政府が進める地方分散型社会推進施策や効果的移住定住推進施策等と関連して、奄美群島に関心を持ち移住する人びとを増やしつつあります。 本プログラムでは、奄美群島に暮らしている地元出身者、島外出身者のどちらも対象として開講されています。臨地実習を通じて、「学知」偏重にならず、住民が語る一次的「土着知」、学芸員・ガイド等が語る整理された二次的な「土着知」に敬意を払いながら学び取るインタビュー経験も重ねていきます。 奄美群島に暮らす住民として〈環境文化〉を意識していくこと、そして自分基準の尺度だけに拠らず、地域に対して敬意を持つこと、その過程で地域理解に必要な倫理観を錬磨していくように常にメッセージを伝えています。49山の島台地の島山と台地の島台地と山の島〈環境文化〉意識の醸成と倫理観の錬磨に向けて
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